中学受験を終えて

30期生(2023年卒) 受験生・保護者(⺟)

 親の体験記は恥ずかしいからできれば書かないで欲しい、と息子からは言われました。ですが、この先成長していく彼が、これまでの日々を懐かしく思い出してくれたら…と思い、寄稿を決めました。
 新四年生での入会当初は電車通塾だったこともあり、文字通り私に手を引かれての通塾でした。不安そうに何度も私を振り返りながら、教室へと消えていく小さな背中を今も覚えています。三年が経ち、いよいよ入試本番を迎え、一戦ごとに逞しくなっていく姿を見たとき、手を引き前へと進む先導者が、いつしか私から息子に変わっていることに気が付きました。入試日早朝、激励を受けに先生の元へと駆け寄る息子。両肩に手を置かれて、少し背伸びをして真正面から先生を見つめる眼差しの真剣さ。ここまで積み重ねてきた時間や絶対的な絆を見せつけられる思いでした。先生の元から送り出された後は、不安そうな足取りから一変し、私を従え進む戦士のようにさえ見えたのです。振り返りもせずに、一人試験場へと消えていく背中を見ながら、こみ上げるものがありました。


 入塾から受験日を迎えるまでは、実に色々なことがありました。幼い頃から何事にも慎重で怖がりだった息子が、私の手を離れて一人で通塾できるようになったのは、五年生の春期講習くらいのこと。同じように電車で通う仲の良いお友達の存在がとても大きかったです。エデュコでは他にも沢山の仲間ができ、学校のお友達とはまた違った刺激や癒しを頂きました。学習面での低迷が顕著に現れはじめたのは、算数が格段に難しくなる五年の後期を半分ほど過ぎたあたりでしょうか。出来るようになりたいけれど出来る気がしない、だからやる気も出ない。今振り返ればそんな気持ちだったのだろうと思えますが、やるべきことをせずに色々な誘惑に負けてしまう姿を見て、この先どうなってしまうのか、不安でいっぱいでした。親子バトルも日々激しくなり、お互いが合格したい、合格させたい、と目指すところは同じはずなのに、なぜこうもすれ違うのかと、焦りからますます近視眼的になっていたこともあり、本当に苦しい日々でした。この時期は湯田先生に何度も面談をお願いしました。学習面での的確なアドバイスに加え、子供の気持ちを代弁してくださるかのような面談に、何度救われたことかわかりません。そして、きっと同じような悩みや苦しみを抱えながら、同じ教室で頑張る塾友の存在は、親子共にこの局面でもかけがえのないものでした。
 親からの期待をひしひしと感じ、それに応えたいと願い、けれどなかなかできるようにはなれない自分の力への焦り、そして志望校への憧れ。まだ小さい体に沢山の感情を詰め込みながら、よく頑張ってくれたと思います。
 一度は本気で受験撤退を考えただけに、一月校の出願を無事に済ませた時には、ここまで来られただけで大成功、そんな気持ちになりました。


 そして迎えた1月入試本番。いくつものお守りや合格祈願グッズをカバンにつめて、緊張からすこし青ざめた顔をして息子は出発しました。道中では一切無言。表情を確認しようにも目も合わない状態に、大丈夫だろうかと心配になりましたが、駅で激励を受けた後は、すっかり落ち着きを取り戻したのは、前述の通りです。最初から最後まで、子供の気持ちを理解して、とことん寄り添い尽くして下さる先生方のお力に、助けられるばかりの受験活動でした。


 1月入試で存分に力を発揮できた息子は、魅力的な学校の合格を手にしました。この結果を受けて、2月は大きく挑戦を、と考えましたが、果たして本人が真に納得できる戦いとはどんなものなのか、またここに来て、家族で大変悩むこととなりました。
 三人で何度も話し合い、湯田先生にご相談しながら、最終的に出した結論ですから、ここからは迷うことなく進もう!と迎えた2月1日。これまでのお守りに加えて、湯田先生からのお手紙を大切に身に着けながら、志望校へと向かいました。しかし、試験を終えて出てきた息子は浮かない顔。聞けば、一月校で出題され、登場人物の心情がさっぱり理解できず、失敗してしまった物語文と同じものが、箇所まで一緒で出題された、とのこと。
 俺、またよくわかんなかったよ…記述もなんとか埋めたけど、これ落ちたかもしれない…と力なく話す様子に、私も内心のショックを隠しながら、必死で励ましました。これはもしかしたら、長い戦いになるかも知れない…けれど、絶対に諦めるものか。と、心の中で静かに闘志を燃やしました。
 そんなわけで、夜の合格発表には格別の喜びがあり、ああ、この子はこの学校が本当に気に入っていたのだなと、こちらまで幸せな気持ちになりました。
 3日の志望校は残念な結果となりましたが、悔しがりながらも息子はどこかさっぱりした顔をしていました。何度目かの激励の時に湯田先生が息子にかけて下さった言葉、今のままの自分でいい。背伸びせずにそのままの自分で闘う。それが一番楽しい。この言葉が私の胸にも沁みました。


 受験、楽しかったね!と晴れやかな笑顔で語り、これまでは入試までのカウントダウンに使っていたカレンダーに、進学予定校の入学式の予定を書き込む息子の姿に、紆余曲折ありながらも走りきることができた者だけが味わい得る、すこし複雑な味のする充実感が漲っているのを感じ、この経験を、大いに誇ってほしいと心から思いました。


 受験生の親としてのもどかしさや悩み、苦しみも味わいましたが、ここまでの道のりには沢山の楽しみもありました。お迎えに行った車の中で、今日はこんな算数の問題が解けたよ、〇〇先生からこんなことを教えてもらってびっくりした、今日の授業は面白すぎた、時間があっという間に過ぎたなど、色々な話をしてくれたこと。また、国語の教材に使われる題材文には、思わず引き込まれ、時に涙してしまうようなものも数多く、この3年間で私の読書の幅は広がり、新刊を必ずチェックするお気に入りの作家さんが多数できたこと。試験期間中も、お母さんと一緒に読んだ本に載っていた傘連判状についての記述が出たよ!と嬉しそうに報告してくれたこと。横について教える事は不要だったけれど、横で一緒にジタバタもがいたからこそ、観られた景色だったのかも知れないと思います。きっとずっと忘れません。
 自分の焦りを子どもにぶつけ、彼の足を引っ張ることしかしてこなかった私ですが、それでも息子は大好きな先生方の下でプライドを持って学び、ゆっくりでも着実に前進してきました。誰にでも憧れて、そこに挑戦する権利がある、現実を見据えながらもその挑戦を応援してくださったエデュコでなければ、この経験は叶わなかったと思います。親として唯一にして最大のファインプレーが、塾選びでした。支えて下さった先生方、スタッフの皆様、そして一緒に頑張った三十期生の皆様に、心から感謝を申し上げます。


 受験は当日の点数だけで結果が決まる残酷なものです。試験に至るまでにその子にどのようなドラマがあったのかは一切関係がありません。けれど結果によってすべてが否定されるわけではなく、その道のりにこそ価値があったのだと、今は信じることが出来ます。

 色々な意見がある中学受験ですが、我が家は挑戦して良かったと思っています。息子も春から念願の生物部に入部し、仲間たちと虫網を振り回すことでしょう。いやもしかしたらまた気が変わって全く別のことを始めるのかも。どんな挑戦でも応援します。
 今受験に向かって進んでいる皆様。どうぞエデュコを信じて、お子様を信じて、思い切り突き進んでください。